2025年6月14日(土)、第52回LET九州・沖縄支部研究大会を開催いたしました。今回は70名の方にご参加いただき、盛況のうちに幕を閉じました。
今大会では、「AIを活用した効果的な外国語学習」をテーマに掲げました。AIが誰もが手軽に利用できる時代となり、教育現場ではその活用とともに課題も指摘されています。本大会では、外国語学習におけるAIの可能性と、その有効な活用法について、さまざまな視点から議論を深めました。
基調講演では、山下美朋先生(立命館大学)に「AI時代のライティング教育––高大連携の実践指導から見えてきたこと」と題し、ご講演いただきました。プロセスライティングにおいてAIによるフィードバックが有効である一方、AIの利用目的を教員と学習者が共有しておかないと、AIの出力だけを頼ってしまい、言語への気づきや自己内省といったライティング本来の学習効果が得られなくなる危険性があることをご指摘いただきました。その上で、AIを利用する際のガイドラインを整備し、教員と学習者が共有することの重要性が説かれました。AIが文法や語彙の修正には有効である一方、文章全体の構成や内容、思考の深まりといった側面は直接、学習者を観察している教員によるフィードバックが不可欠であることも強調されました。

シンポジウムでは、学会テーマに基づき、高等学校でのAI活用の実践事例が紹介されました。

印象に残ったことをかいつまんで紹介すると、佐藤孝士先生(長崎県立五島海陽高等学校)からは、Task-based Learningの実践と、その教材作成におけるAIの活用についてご報告いただきました。大学入学共通テストのリーディング対策教材を作成する際には、AIに対して単に「異なる立場の文章を複数作成する」と依頼するだけでは不十分であることがあり、まずAIとともに立場のバリエーションを洗い出し、どの立場から書くのかを明示して指示することで、より効果的な教材が作成できるという実践的な工夫が紹介されました。
吉田竜真先生(佐賀県立鳥栖高等学校)からは、「AIあるのに、なんで英語勉強するの?」(NIKKEI Film)を題材にした授業実践について報告がありました。生徒が自分の意見を英語で表現する中で、翻訳機能による表現確認や、AIによる意見文のサマリー作成を活用することで、クラス全体の意見の傾向を可視化し、学びを深める取り組みが紹介されました。
山口健人先生(長崎県立宇久高等学校)からは、スピーキング、ライティング、探究活動におけるAI活用の実践をご紹介いただきました。特にスピーキング活動において、AIとペアワークを行うことの有効性と課題について考察があり、英語力の高い生徒には効果がある一方で、流暢に話すことが難しい生徒にとっては、AIの発話を処理しきれず混乱を招く可能性があるという示唆がありました。
このほかにも、9件の研究発表・実践報告が行われ、参加者同士の活発な議論が交わされました。
次回の大会は、2026年度に大分大学で開催予定です。また、年度内には現場発信型英語教育研究会、学術講演会・ワークショップなども予定しております。今後も多くの皆さまと学びを共有できる機会を楽しみにしております。
最後に、本大会の会場をご提供いただいた福岡大学様、ならびに運営にご尽力いただいた福岡大学所属の会員・学生の皆さまに、心より御礼申し上げます。
(報告:植田正暢(北九州市立大学))